ちょっと趣向を変えて話題の新刊をレコメンド。
三谷宏治氏の『ビジネスモデル全史』が非常におもしろいんです。

2014-09-25-21-41-17

お値段は3,024円と「汚染された三角州/Polluted Delta」1枚分くらいの値段がするんですが、この本のエッセンスは、幸いにしてウェブの連載で読むことができます。筆頭事例は、T字カミソリのジレット。この替え刃モデルがいかに革新的だったのか、というところから話はスタートします。

アップルは当時のビジネスモデルの常識を、ことごとく打ち破ることで唯一無二の大成功を手にしました。

・垂直統合モデル:主流の水平分業でなく、販売店(アップルストア)や電子部品(コア・プロセッサ)にいたるまで、可能な限り自社で行った

・世界ワン・プラットフォーム:国ごとキャリアごとの差をOSで吸収し、かつ、OSの無料アップグレードを続けることで、基本的には事業者がすべてのiPhoneに同一仕様のサービスを提供できるようにした。

・逆替え刃モデル:安く売って後で儲ける替え刃モデルでなく、「ハード本体は高く」して、「継続サービスである音楽ソフトや主要アプリは無料か安く」して儲ける逆替え刃モデルを採用した

しかし私たちはそもそも、収益モデルの中でも代表的な「替え刃(Razor and blades)モデル」とは何かを理解しているでしょうか。


ジレットの“替え刃モデル”は、ただのアイデア一発ではない~「ビジネスモデル全史」【前編】
http://diamond.jp/articles/-/58523?display=b


このあとに続くのは、以下のような事例。

・メディチ家「国際為替・決済」
・三井越後屋「現金掛け値なし」
・バンカメ「VISAカード」
・スクエア「モバイルペイメント」
・A&P「チェーンストア」
・シアーズ「GMS」
・フォード「垂直統合」
・CBS「広告モデル」
・ゼロックス「従量制課金モデル」


当たり前のように触れている製品やサービスが、いかに革新的な事業を成し遂げたかを学べると同時に、一世を風靡したビジネスモデルの命も永遠ではないことを学べます。
そうした栄枯盛衰から、どうしても喚起させられるのは、我らがマジック・ザ・ギャザリング、我らがトレーディング・カード・ゲーム(TCG)の話です。

この本の中には言及がありませんが、TCGというのは、いま振り返っても本当に衝撃的なビジネスモデルだったと言えると思います。リチャード・ガーフィールド博士の発明のうち真に価値があるのは、5色のマナでも、ターン制カードバトルでも、Black Lotusでもなく、“コレクション性と競技性の両面をあわせもった半永続的に拡張可能なお手軽ゲーム”というビジネスモデルだった、というわけです。

このあたりをうまく説明した論考を紹介します。

トレーディングカードというのは、日本で言えば、食玩についてくるキャラクターシールや、アニメ産業、アイドル産業などに付随する賞品を想像していただければ結構である。つまり、それ単体では”ゲーム”をすることはできないカード型の商品である。(中略)

あるトレーディングカードのタイトルがロング・ヒットすると、そのシリーズには「資産価値」が生まれる。例えば、そのシリーズのレア・カードを、あなたがネットオークションに出品したとしよう。そうしたなら、元値以上の価値がつくだろう。これがブランドである。こうしたブランド力の醸成も長期的収益に結びつくものとして、TCGのモデルには考慮されている。

しかしながら、トレーディングカードの購入を促す理由付けはあくまでも「コレクション」にすぎないのを忘れてはならない。単に「コレクション」というだけでは、次第に購入意欲は薄れていってしまう。そこで、トレーディングカードに”ゲーム”のシステムを導入する、というわけだ。そうすることで、「相手に勝利する」という新たな理由付けが生まれ、強烈なインセンティブ・システムとなることはお分かりいただけるだろう。


"TCG"と呼ばれる玩具をめぐる諸問題
http://apg.blog3.fc2.com/blog-entry-347.html


このビジネスモデルが世界にいかに衝撃を与えたかについては、多くを語る必要はないと思いますが、おさらいの意味でWikipediaを引用します。

メディアクリエイトの調べでは、2009年の日本でのTCGの市場規模は1006億円あり、TVゲームを除く玩具の中では特に人気の高い商品となっている。

漫画やアニメ・ゲームなどとタイアップするか、若しくはそのキャラクターを用いたタイトル(キャラクターTCG)が主なヒット作となっている。『遊戯王OCG』『デュエル・マスターズ』『ヴァンガード』『バトルスピリッツ』の子供向けのタイトルは、TCG全体の売り上げの3分の2を占める高い人気を誇り、子供だけではなく高年齢層にもファンが多い。さらに、『ムシキング』『おしゃれ魔女ラブ&ベリー』など、より視覚的なゲーム性を高めたTCAGが発売され、低年齢層を中心に人気のタイトルとなっている。これに対し、青少年から大人に人気のキャラクターを用いた『ガンダムウォー』『サンライズクルセイド』『レンジャーズストライク』。いわゆるキャラクター萌えを特徴とする男性向けTCGの『リセ』や、女性向けTCG『CLAMP in CARDLAND』など、比較的高い年齢層を意識した作品も多数発売されており、安定した固定ファンを持つ。他にも様々なキャラクターで数多くのTCGが企画され、それぞれに成功を収めている。さらに2009年ブシロードより美少女系作品、アダルトゲームおよび、女性人気を持つ作品を題材とした『ヴァイスシュヴァルツ』など、成人プレイヤーを対象としたTCG。ボーイズラブ系作品および、アダルトボーイズラブゲームを題材とした『アリス×クロス』など、成人女性プレイヤーを対象としたTCGも発売されるようになっており、TCGの年代層は年々幅広くなっている。(中略)

2011年には、既存のメーカーによる完全新作のTCGの乱立で飽和状態と化し、競争がさらに激しさを増している。2012年のTCG市場規模も838億円と減少している。


トレーディングカードゲーム - Wikipedia


さて、ここでやっと問題が出てきました。
世界に大きな衝撃を与えたビジネスモデルに、なぜ衰退の兆候が見られるのか? その衰退が真だとした場合、その原因はなにで、どういった対策ができるのでしょうか。

その問題の一つが「売り逃げ商法」だ。これは日本国内でしばしば見られる売り方である。それに使われるのは、日本の「キャラ系TCG」である。

キャラ系TCGはその名の通り、日本で人気のあるアニメーションや、漫画、テレビゲームなどのキャラクターを用いて作られている。これをよく考えてみると、もし、素材となったアニメ・漫画作品の人気が下降線をたどるようになったとき、その作品を利用したTCGの売上はどうなるのだろうか。キャラ系TCGは、素材となる作品の人気が出た後に販売されるのが普通であり、必然的に「後追い」の商売になる。つまり、売上も作品の人気に追随していくことになる。したがって、作品人気が下降し始める頃にはTCGは撤退してしまうのである。


"TCG"と呼ばれる玩具をめぐる諸問題
http://apg.blog3.fc2.com/blog-entry-347.html


売り逃げがなぜ問題かについては、別の論考を。

TCGプレイヤーは過去の販売サイドのサポートのまずさとか、プレイヤー同士の軋轢(競技偏重/強さ重視/シャーク被害 etc. )によって、今やその多くが疲弊しきっています。そしてそういう様子を周囲のノン・TCGプレイヤーは極めて冷静に見ています。そんな中で新たなタイトルのTCGが発売されたって、かつての遊戯王OCGのような爆発的なヒットが期待できるはずがありません。言い換えると「既に日本ではTCGというゲーム・カテゴリー全体にケチが付いてしまっている。」という事です。じゃあ今後TCGを発売しようとしているメーカーは、果たしてその事に気が付いているのでしょうか。気が付いていないとしたら相当なお間抜けちゃんですが

http://www.mitene.or.jp/~aysen/essay/essay_024.html


TCGのビジネスモデルについては、ソーシャルゲームやスマホアプリのベンダーも注目していて、ゲーム開発の参考にしています。おそらく2011年だったと思いますが、IVS(Infinity Venture Summit … IT系企業が集まるカンファレンス)の壇上では「マジック・ザ・ギャザリング」という単語が何度も交わされていて、会場にいてこそばゆい驚きを感じたのをよく覚えています。「探検ドリランド」が全盛期の頃でした。

その後、リアルでもネットでも、数多くの新タイトルがリリースされてきました。それはもしかすると、論考にあるように、売り逃げ上等の焼畑農業、あるいはTCGというゲームの緩慢な自殺だったと非難されてもしょうがないものだったと言えるかもしれません。

しかしここにきて、期待の新星がTCG業界に誕生するとの報せが!
そのタイトルは、リアルとネットのあいのこのパズドラTCGです!


マックスむらいさんも山本Pも駆けつけた“パズドラTCG”発表会
http://weekly.ascii.jp/elem/000/000/258/258116/



公式サイト(http://pad-tcg.com/)には、プレーヤーをわくわくさせるようなプロモーション動画も公開されています。




パズドラといえば、売り逃げ上等のソシャゲ・スマホアプリ界にあって、ユーザー目線を大事にした運営で圧倒的な支持を集めてきた良心的なゲームタイトルです。そのパズドラが満を持して発表するTCGですから、(願望まじりを承知で書きますが)下手な売り逃げをねらった製品を出してくるわけがない。きっと、長期的な目線で、TCGというビジネスモデルをネットとリアルの両面から再構築するような野望をもっているはず(はい、願望です)。

衝撃的なビジネスモデルだけでは十分じゃない。そこに組織のケイパビリティがなければいけない。というのは『ビジネスモデル全史』でも繰り返し出てくるトピックですが、WotCとガンホーにはそのケイパビリティ(用語解説のリンク)を感じています。TCGの未来のため、今後の活躍に本当に期待しています。

今後とも何卒よろしくお願い致します。ちんぽ


紹介した本について






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